中級トレーダーのための体系的アプローチ
はじめに
テクニカル分析を学び、チャートパターンも理解している。それでもダマシに遭い、エントリータイミングを逃す。その理由は「出来高」という最も重要な要素を見落としているからです。
VPA(Volume Price Analysis:出来高価格分析)は、価格と出来高の関係性を分析することで、大口投資家の動きを推測し、トレードの優位性を高める分析手法です。本レポートは、すでに基本的なチャート分析を習得している中級トレーダーを対象に、VPAの理論と実践方法を体系的に解説します。
第1章:VPAの本質
📌 この章の要点
- 出来高は操作が最も困難な客観的指標
- 大口投資家の売買は出来高に痕跡を残す
- 市場はアキュムレーションとディストリビューションで構成される
1-1. なぜ出来高なのか
出来高は取引量という客観的事実であり、価格のように容易に操作できない指標です。大口投資家の売買は取引規模が大きいため、必ず出来高の変化として記録されます。価格だけを見ていては、その値動きが「本物」なのか「ダマシ」なのかを判断できません。

価格と出来高の関係は以下のように理解できます:
- 価格 = 過去に起きた結果
- 出来高 = その結果を生み出した市場参加者のエネルギー量
1-2. 市場構造の理解:アキュムレーションとディストリビューション
市場は大きく分けて二つの段階を繰り返します。
アキュムレーション(買い集め) 大口投資家が、下落で恐怖に駆られた投資家から安値で資産を買い集める段階。価格は横ばいまたは緩やかな下落を示し、出来高は散発的に増加する。
ディストリビューション(売り抜け) 大口投資家が、上昇で楽観的になった投資家に高値で資産を売り渡す段階。価格は横ばいまたは緩やかな上昇を示し、出来高は散発的に増加する。
この二段階を見抜くことがVPAの最終目的です。
1-3. VPAとは何か
VPAは「出来高分析」と「価格分析(ローソク足分析)」を統合した分析手法です。
- 出来高分析のみ:市場のエネルギー量は分かるが、方向性は不明
- 価格分析のみ:方向性は分かるが、その信頼性が不明
- VPA:両者を組み合わせることで、値動きの信頼性を評価できる
✅ チェックポイント
- □ 出来高が操作困難な理由を説明できる
- □ アキュムレーションとディストリビューションの違いを理解した
- □ VPAが価格分析を補完する理論を理解した
第2章:ワイコフの3法則
📌 この章の要点

- 需給バランスが価格を決定する
- 大きなトレンドには長い準備期間が必要
- 出来高(努力)と値動き(結果)の乖離が転換点を示す
VPA分析の理論的基盤は、リチャード・ワイコフが提唱した3つの市場法則にあります。
2-1. 需要と供給の法則
価格は需給バランスによって決定されます。
- 需要 > 供給 → 価格上昇
- 供給 > 需要 → 価格下落
出来高を伴う価格上昇は、需要が供給を圧倒している証拠となります。逆に、出来高を伴わない価格上昇は、需給バランスの裏付けを欠いており、持続性が低いと判断できます。
2-2. 原因と結果の法則
大きなトレンド(結果)が発生するには、その前に必ず長期間の準備期間(原因)が存在します。
この準備期間は、チャート上では「出来高を伴う横ばい期間」として現れます。横ばい期間が長く、出来高が多いほど、その後のトレンドは強力になる傾向があります。
実践的な意味 短期間の持ち合いからのブレイクアウトよりも、長期間の持ち合いからのブレイクアウトの方が信頼性が高い。
2-3. 努力と結果の法則(VPAの核心)
これはVPAにおいて最も重要な法則です。
- 努力 = 出来高
- 結果 = 値動き(価格変動幅)
通常の状態 大きな努力(高出来高)→ 大きな結果(大きな値動き) 小さな努力(低出来高)→ 小さな結果(小さな値動き)
異常な状態(重要)
- 大きな努力(高出来高)→ 小さな結果(小さな値動き)
- 解釈:強い圧力が吸収されている。トレンド転換の前兆。
- 小さな努力(低出来高)→ 大きな結果(大きな値動き)
- 解釈:市場参加者の支持を欠いた動き。ダマシの可能性。
この「努力と結果の乖離」を発見することが、VPAの実践における最重要スキルです。

✅ チェックポイント
- □ 3つの法則をそれぞれ説明できる
- □ 「努力と結果の法則」がなぜ最も重要かを理解した
- □ 出来高と値動きの乖離を異常として認識できる
第3章:4つの基本パターン
📌 この章の要点
- 値動きと出来高の組み合わせで市場状態を判断
- パターン3と4が異常(転換またはダマシ)を示す
- チャートの位置(底値圏・天井圏)で解釈が変わる
VPA分析は、値動き(結果)と出来高(努力)の関係性を4つのパターンに分類します。
3-1. 基本分類表
| パターン | 値動き | 出来高 | 状態 | 解釈 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 大 | 大 | 正常 | 健全なトレンド。継続の可能性が高い。 |
| 2 | 小 | 小 | 正常 | 市場が休息中。方向感なし。 |
| 3 | 大 | 小 | 異常 | ダマシの可能性。市場参加者の支持を欠く。 |
| 4 | 小 | 大 | 異常 | 転換の警告。圧力が吸収されている。 |
3-2. パターン3:出来高が少ないのに大きく動く(ダマシ)
市場の状態 価格は大きく動いているが、出来高が伴っていない状態。これは「試し玉」と呼ばれる動きの可能性が高い。
大口投資家の意図 少ない資金で価格を動かし、「この価格レベルで参加者がついてくるか」を試している。参加者が少なければ、この動きは短命に終わる。
実践的な対応 このパターンが出現した場合、その方向へのエントリーは避けるべき。価格は元の水準に戻る可能性が高い。

3-3. パターン4:出来高が多いのにほとんど動かない(転換)
市場の状態 出来高は急増しているが、価格がほとんど動かない、または長い上下ヒゲを形成している状態。
上昇トレンドの天井での解釈
- 個人投資家の買い(需要)が頂点に達している
- 大口投資家がその買いを利用して売り(供給)を放出している
- 需要と供給が拮抗し、市場のエネルギーが消耗している
- トレンド転換が近い
下落トレンドの底での解釈
- 個人投資家の売り(供給)が頂点に達している
- 大口投資家がその売りを利用して買い(需要)を吸収している
- パニック売りが終息し、反転が近い
実践的な対応 このパターンは最も重要な転換シグナル。ポジションの手仕舞いまたは逆ポジションの準備を検討すべき。
3-4. チャート上の位置による解釈の変化
同じパターンでも、チャート上のどの位置で発生するかで意味が変わります。
- 底値圏でのパターン4 → 強気転換の可能性(ストッピングボリューム)
- 天井圏でのパターン4 → 弱気転換の可能性(トッピングアウトボリューム)
- トレンド中のパターン1 → トレンド継続の確認
- 高値圏でのパターン3 → 上昇の罠(フェイクアウト)

✅ チェックポイント
- □ 4つのパターンを分類できる
- □ パターン3と4が異常である理由を説明できる
- □ チャートの位置で解釈が変わることを理解した
第4章:VPA特有の概念
📌 この章の要点
- Ultra High/Low Volumeの定義と活用法
- Volume SpreadとPriceの関係性
- タイムフレーム別の出来高解釈
この章では、VPA分析に固有の重要概念を解説します。
4-1. Ultra High Volume(異常出来高)
定義 過去20~50期間の平均出来高の2.5~3倍以上を示す出来高。
市場の意味
- 大口投資家の大規模な参加
- 市場センチメントの劇的な変化
- 重要な価格レベルでの攻防
分析ポイント Ultra High Volumeは単独では意味を持たない。価格変動幅(Spread)との組み合わせで解釈する。
- Ultra High Volume + Wide Spread → 強いトレンド継続
- Ultra High Volume + Narrow Spread → 吸収(Absorption)が発生。転換の可能性
4-2. Ultra Low Volume(極端に少ない出来高)
定義 過去20~50期間の平均出来高の30~50%以下を示す出来高。
市場の意味
- 市場参加者の関心の欠如
- 大口投資家の不在
- 現在の価格レベルに対する合意
実践的な活用
- アキュムレーション段階の「テスト」で出現 → 売り圧力の枯渇を示唆
- 上昇中のUltra Low Volume → エネルギー不足。調整の可能性
- ブレイクアウト時のUltra Low Volume → ダマシの可能性が高い
4-3. Volume Spread Analysis (VSA)との違い
VSA(Tom Williamsによって体系化)
- ワイコフ理論を基にした手法
- Spread(価格変動幅)を重視
- より詳細なバー分析に焦点
VPA(Anna Coullingによって普及)
- ワイコフ理論をシンプル化
- Volume(出来高)を主軸に置く
- より実践的で習得しやすい
共通点 両者とも「努力と結果の法則」を核心とし、大口投資家の動きを追跡する点では同じ。
4-4. タイムフレーム別の出来高解釈
日足
- 最も信頼性が高い
- 大口投資家の本格的な動きを捉えやすい
- スイングトレードの判断に最適
4時間足
- 中期的なトレンド判断に有効
- 日足のサインを補完する
- デイトレードとスイングの中間
1時間足以下
- 短期的なノイズが混入しやすい
- VPA単独での判断は危険
- 他のタイムフレームとの併用が必須
重要原則:マルチタイムフレーム分析 複数のタイムフレームで同じVPAシグナルが出現した場合、その信頼性は大幅に向上します。
✅ チェックポイント
- □ Ultra High/Low Volumeの定義を説明できる
- □ Volume Spreadの組み合わせで解釈できる
- □ VSAとVPAの違いを理解した
- □ タイムフレームによる信頼性の差を認識した
第5章:主要なローソク足パターン
📌 この章の要点
- ストッピングボリュームは底打ちの最強シグナル
- トッピングアウトボリュームは天井の警告
- ローソク足の形状と出来高の組み合わせで判断
5-1. ストッピングボリューム(Stopping Volume)
定義 下落トレンドの終盤で、Ultra High Volumeを伴いながら長い下ヒゲを持つローソク足が出現するパターン。
市場メカニズム
- パニック売りが最高潮に達する
- 大口投資家がその売りを全て吸収(買い)
- 売り圧力が枯渇
- 反転の準備完了
判断基準
- 出来高:平均の2.5倍以上
- ローソク足:下ヒゲが実体の2倍以上
- 位置:明確な下落トレンド後
- 次のローソク足:反発を確認
信頼性を高める要素
- 複数のストッピングボリュームが近い価格帯で発生
- 重要な支持線付近での出現
- 日足レベルでの確認
5-2. トッピングアウトボリューム(Topping-out Volume)
定義 上昇トレンドの天井圏で、Ultra High Volumeを伴いながら長い上ヒゲを持つローソク足が出現するパターン。ストッピングボリュームの逆。
市場メカニズム
- 買いが最高潮に達する
- 大口投資家がその買いを利用して売り抜け
- 買い圧力が枯渇
- 下落の準備完了
判断基準
- 出来高:平均の2.5倍以上
- ローソク足:上ヒゲが実体の2倍以上
- 位置:明確な上昇トレンド後
- 次のローソク足:下落を確認
典型的な失敗例 このパターンを無視して「まだ上がる」と判断し、天井でポジションを持つこと。

5-3. ハンマーと首吊り線
ハンマー(底値圏)
- 出来高が伴う場合:強気シグナル(ストッピングボリュームの一種)
- 出来高が少ない場合:信頼性低。様子見
首吊り線(天井圏)
- 出来高が伴う場合:弱気シグナル
- 出来高が少ない場合:まだ警告段階
5-4. 流れ星(Shooting Star)
特徴
- 長い上ヒゲ
- 天井圏で出現
- 高出来高を伴う場合、トッピングアウトボリュームと同等の意味
実践的な活用 流れ星単独では判断せず、その後のローソク足で下落が確認された場合に弱気シグナルとして認識する。
5-5. 各パターンの出現頻度と信頼性
| パターン | 出現頻度 | 信頼性 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ストッピングボリューム | 低 | 極めて高 | 底打ちの最強シグナル |
| トッピングアウトボリューム | 低 | 極めて高 | 天井の最強シグナル |
| ハンマー(出来高大) | 中 | 高 | 底値圏限定 |
| 首吊り線(出来高大) | 中 | 中〜高 | 確認が必要 |
| 流れ星(出来高大) | 中 | 中〜高 | 確認が必要 |
✅ チェックポイント
- □ ストッピングボリュームの条件を説明できる
- □ トッピングアウトボリュームを識別できる
- □ ローソク足の形状だけでなく出来高も確認する習慣がついた
第6章:市場サイクルとVPA
📌 この章の要点
- アキュムレーション段階の3つのフェーズ
- ディストリビューション段階の3つのフェーズ
- トレンドの健全性評価基準
6-1. アキュムレーション段階の分析
大口投資家が下落局面で安値買いを行う段階。以下の3つのフェーズで構成されます。
フェーズ1:セリングクライマックス
- 特徴:急激な下落 + Ultra High Volume
- 意味:パニック売りの頂点。売りたい投資家が売り尽くす
- VPAシグナル:ストッピングボリュームの出現
フェーズ2:底値圏での横ばい
- 特徴:価格は小幅に上下 + 出来高は散発的
- 意味:大口投資家が時間をかけて静かに買い集めている
- VPAシグナル:Ultra High Volume(パターン4)が断続的に出現
フェーズ3:上昇の「テスト」
- 特徴:価格が少し上昇 + Ultra Low Volume
- 意味:大口投資家が「まだ売り圧力が残っているか」を確認
- VPAシグナル:出来高が少ないまま価格が維持される → 売り圧力の枯渇 → ブレイクアウトが近い
実践的なエントリーポイント フェーズ3のテストが完了し、その後にUltra High Volumeを伴うブレイクアウトが発生した時点。
6-2. ディストリビューション段階の分析
大口投資家が上昇局面で高値売りを行う段階。アキュムレーションの逆のプロセス。
フェーズ1:バイイングクライマックス
- 特徴:急激な上昇 + Ultra High Volume
- 意味:熱狂的な買いの頂点。買いたい投資家が買い尽くす
- VPAシグナル:トッピングアウトボリュームの出現
フェーズ2:高値圏での横ばい
- 特徴:価格は小幅に上下 + 出来高は散発的
- 意味:大口投資家が時間をかけて高値で売り抜けている
- VPAシグナル:Ultra High Volume(パターン4)が断続的に出現 + 価格は上昇しない
フェーズ3:下落の「テスト」
- 特徴:価格が少し下落 + Ultra Low Volume(反発時)
- 意味:大口投資家が「まだ買い圧力が残っているか」を確認
- VPAシグナル:反発時の出来高が極端に少ない → 買い圧力の枯渇 → ブレイクダウンが近い
実践的なエグジットポイント フェーズ2の段階で利益確定を検討。遅くともフェーズ3のテスト完了時点で退出すべき。
6-3. トレンドの健全性評価
健全な上昇トレンド
- 価格上昇 + 出来高増加
- 各押し目で出来高減少
- ブレイクアウト時にUltra High Volume → 継続の可能性が高い
危険な上昇トレンド(ダイバージェンス)
- 価格は新高値更新 + 出来高は減少傾向
- Ultra Low Volumeでの上昇
- パターン3の頻発 → エネルギー枯渇。転換が近い
健全な下落トレンド
- 価格下落 + 出来高増加
- 各戻りで出来高減少 → 下落継続の可能性が高い
転換の近い下落トレンド
- 価格は新安値更新 + 出来高は減少傾向
- Ultra Low Volumeでの下落 → 売り圧力枯渇。反転が近い
6-4. 典型的な失敗パターン
失敗例1:アキュムレーション完了前のエントリー フェーズ2の段階でエントリーすると、フェーズ3のテスト下落に巻き込まれる。
失敗例2:ディストリビューション中の買い増し 高値圏での横ばいを「持ち合い」と誤認し、ブレイクアウトを期待して買い増し。その後に急落。
失敗例3:ダイバージェンスの無視 価格の新高値更新に興奮し、出来高減少という警告を無視してエントリー。天井掴み。
✅ チェックポイント
- □ アキュムレーションの3フェーズを説明できる
- □ ディストリビューションの3フェーズを説明できる
- □ ダイバージェンスを識別できる
- □ 典型的な失敗パターンを理解した
第7章:応用技術
📌 この章の要点
- 支持線・抵抗線は出来高集中帯として機能する
- ブレイクアウトの真偽はVPAで判定できる
- Volume Profileで重要価格帯を特定する
7-1. 支持線・抵抗線の本質
従来の認識 過去の高値・安値を結んだ水平線。
VPAの認識 過去に大量の取引が行われた価格帯。多くの投資家がポジションを持っている心理的に重要な領域。
実践的な意味
- 支持線 = 大量の買いポジションが存在する価格帯 → 下落時に押し目買いが入りやすい
- 抵抗線 = 大量の売りポジション(または含み損の買いポジション)が存在する価格帯 → 上昇時に利益確定売りが出やすい
7-2. ブレイクアウトの真偽判定
本物のブレイクアウト
- 条件1:Ultra High Volumeを伴う
- 条件2:Wide Spread(大きな価格変動)
- 条件3:ブレイク後にすぐに元の水準に戻らない
- 条件4:次のローソク足も同方向に継続
ダマシ(フェイクアウト)
- Ultra Low Volumeまたは平均程度の出来高
- Narrow Spread(小さな価格変動)
- ブレイク後すぐに元の水準に戻る
- パターン3(大きな値動き + 少ない出来高)に該当
実践的な対応 ブレイクアウト時の出来高を必ず確認。Ultra High Volumeでない場合はエントリーを見送る、または確認後にエントリーする保守的なアプローチが推奨される。
7-3. Volume Profile(価格帯別出来高)の活用
概念 特定期間内で、各価格レベルでどれだけの取引が行われたかを横棒グラフで表示する分析ツール。
主要な要素
POC(Point of Control) 最も出来高が多い価格帯。最も多くの投資家がポジションを持つ価格レベル。
VAH/VAL(Value Area High/Low) 出来高の約70%が集中している価格範囲の上限・下限。
実践的な活用法
- 強力な支持・抵抗の特定
- POC付近は強力な支持・抵抗として機能しやすい
- 価格がPOCに近づくと、大量の売買が発生する可能性
- 現在の市場心理の判断
- 現在価格 > POC → POCは支持帯として機能
- 現在価格 < POC → POCは抵抗帯として機能
- ブレイクアウトの妥当性評価
- POCを抜ける動きは重要
- Ultra High Volumeを伴わないPOC突破は疑わしい
7-4. 他の分析手法との統合
VPAは単独で使用するよりも、他の分析手法と組み合わせることで効果が増します。
推奨される組み合わせ
- トレンドライン + VPA → トレンド転換の精度向上
- フィボナッチリトレースメント + VPA → 反転ポイントの信頼性向上
- 移動平均線 + VPA → トレンドの強さの確認
- RSI/MACD + VPA → ダイバージェンスの確認
統合の原則 複数の分析手法が同じ結論を示す時、そのシグナルの信頼性は大幅に向上します。
✅ チェックポイント
- □ 支持線・抵抗線を出来高の観点で理解した
- □ ブレイクアウトの真偽を判定できる
- □ Volume Profileの基本を理解した
- □ 他の分析手法との統合の重要性を認識した
第8章:VPAの限界と注意点
📌 この章の要点
- VPAは万能ではなく限界が存在する
- 特定の市場環境では機能しにくい
- 他の分析手法との併用が推奨される
8-1. VPAが機能しにくい市場環境
薄商い(流動性が低い)市場
- 出来高自体が少ないため、Ultra High/Low Volumeの判定が困難
- 少数の参加者で価格が大きく動くため、VPAシグナルの信頼性が低下
- 例:小型株、マイナー仮想通貨、祝日前後の市場
急激なニュースドリブン相場
- ファンダメンタルズ要因(決算、経済指標、地政学リスク)で価格が急変する場合
- テクニカル分析全般が機能しにくい
- VPAシグナルを無視した動きが発生
アルゴリズム取引が支配的な市場
- 高頻度取引(HFT)が大量の出来高を生成
- 人間の心理を前提としたVPA理論が当てはまりにくい
- 短期足(5分足以下)でのVPA使用は特に注意
8-2. 出来高がノイズになるケース
オプション満期日(SQ日)
- 裁定取引による異常な出来高が発生
- VPAシグナルが誤作動しやすい
配当落ち日
- 配当権利確定に伴う売買で出来高が増加
- 本質的な需給とは無関係
指数リバランス日
- インデックスファンドの機械的な売買
- 大口投資家の意図とは無関係な出来高
実践的な対応 これらのイベント前後ではVPAシグナルの解釈に慎重になり、他の根拠を重視する。
8-3. VPA分析の限界
1. 後知恵バイアス 過去のチャートでは完璧に見えるVPAシグナルも、リアルタイムでは判断が難しい場合が多い。
2. 主観性の介入 「Ultra High」「Ultra Low」の基準は分析者の判断に依存する。完全に客観的ではない。
3. 大口投資家の多様化 現代では大口投資家も多様化しており、全員が同じ戦略を取るわけではない。VPAが想定する「単一の意図」が存在しない場合もある。
4. 市場操縦の高度化 VPAを知る投資家が増えることで、逆にVPAシグナルを利用した罠が仕掛けられる可能性もある。
8-4. 推奨される使用法
原則1:単独での判断を避ける VPAシグナルだけでエントリー・エグジットを決定するのではなく、必ず他の根拠(トレンド、支持・抵抗、チャートパターン)と組み合わせる。
原則2:複数のタイムフレームで確認 日足でVPAシグナルが出ても、週足や4時間足でも同様のシグナルが出ているかを確認する。
原則3:資金管理と併用 VPAの精度が高くても、適切な資金管理(ストップロス、ポジションサイズ)なしでは長期的な成功は困難。
原則4:継続的な検証 自分の取引記録を残し、VPAシグナルの有効性を定期的に検証する。市場環境によって有効性は変化する。
8-5. VPAで避けるべき典型的な誤り
- 過度な確信
- 「VPAシグナルが出たから絶対に勝てる」という思考
- シグナルの見逃し恐怖
- 全てのVPAシグナルに反応しようとする
- 他の情報の無視
- ファンダメンタルズや市場環境を完全に無視
- バックテスト依存
- 過去のチャートで完璧に機能したという理由だけでリアルトレードに適用
- 固定的な基準の適用
- 「平均の3倍がUltra High」と機械的に決めつける。市場や銘柄によって調整が必要
✅ チェックポイント
- □ VPAの限界を理解した
- □ 機能しにくい市場環境を認識した
- □ 単独での使用を避ける重要性を理解した
- □ 典型的な誤りを把握した
まとめ:VPAで優位性を高める
VPA分析の本質
VPAは「絶対に勝てる手法」ではなく、「トレードの優位性を高めるツール」です。出来高という客観的データを価格分析に統合することで、以下の能力が向上します。
- ダマシの識別能力
- 出来高を伴わない価格変動を疑う習慣が身につく
- 転換点の察知能力
- 努力と結果の乖離から、トレンド転換を早期に発見できる
- エントリー・エグジットの精度
- 大口投資家の動きを推測し、優位性の高いポイントで行動できる
継続的な学習と検証の重要性
VPAの習得には、理論の理解だけでなく、実践的な経験の蓄積が不可欠です。
推奨される学習プロセス
- 過去のチャートで典型的なVPAパターンを100例以上分析
- リアルタイムチャートでVPAシグナルを記録(トレードはしない)
- 自分の予測と実際の値動きを比較検証
- 少額での実践トレード開始
- トレード記録の定期的な見直しと改善
次のステップ
本レポートで学んだVPAの基礎を土台に、以下の発展的学習を推奨します。
- ワイコフ理論の深堀り
- VPAの理論的背景をより深く理解する
- VSA(Volume Spread Analysis)の学習
- VPAをより詳細化した分析手法
- 実際の市場での検証
- 自分が取引する市場・銘柄でのVPA有効性の確認
- 他のテクニカル分析との統合
- より多角的な分析能力の構築
最後に
VPAは、価格という「結果」だけでなく、出来高という「努力」にも目を向けることで、市場の真の動きを理解しようとする分析哲学です。
完璧な分析手法は存在しません。しかし、出来高という客観的事実を分析に組み込むことで、感情的な判断を減らし、論理的な意思決定を行う基盤を構築できます。
継続的な学習と検証を通じて、VPAをあなたのトレードスキルの重要な一部として統合してください。
付録:用語集
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| VPA | Volume Price Analysis。出来高と価格を統合した分析手法。 |
| アキュムレーション | 大口投資家が安値で買い集める段階。 |
| ディストリビューション | 大口投資家が高値で売り抜ける段階。 |
| Ultra High Volume | 平均出来高の2.5~3倍以上の異常出来高。 |
| Ultra Low Volume | 平均出来高の30~50%以下の極端に少ない出来高。 |
| ストッピングボリューム | 下落終盤で出現する高出来高 + 長い下ヒゲのパターン。底打ちサイン。 |
| トッピングアウトボリューム | 上昇終盤で出現する高出来高 + 長い上ヒゲのパターン。天井サイン。 |
| Spread | ローソク足の高値と安値の差。価格変動幅。 |
| 吸収(Absorption) | 大口投資家が個人投資家の売買を受け止めること。 |
| ダイバージェンス | 価格と出来高の乖離。トレンド転換の警告。 |
| POC | Point of Control。Volume Profileで最も出来高が多い価格帯。 |
| VSA | Volume Spread Analysis。VPAの元となった分析手法。 |
| 努力と結果の法則 | 出来高(努力)と値動き(結果)の関係性を分析する法則。VPAの核心。 |
| 試し玉 | 大口投資家が市場の反応を確かめるために行う小規模な売買。 |
| フェイクアウト | ダマシのブレイクアウト。出来高を伴わない偽の突破。 |
【重要な原則の再確認】
✓ 出来高は操作が最も困難な客観的指標
✓ 努力(出来高)と結果(値動き)の乖離が異常を示す
✓ パターン4(高出来高 + 小値動き)が転換の最重要サイン
✓ Ultra High/Low Volumeの定義を明確に持つ
✓ ブレイクアウトは必ず出来高で確認
✓ VPAは他の分析と併用して初めて真価を発揮
✓ 市場環境によってはVPAが機能しないケースも存在
✓ 継続的な検証と改善が成功の鍵
投資は自己責任でお願いいたします。


コメント