― 経済的自由への実践的ロードマップ ―
はじめに:なぜ今この本が注目されているのか
給料は上がらず物価は上昇し続ける現代日本。多くの人が将来への漠然とした「お金の不安」を抱えながらも、具体的な対策を講じられずにいます。本書『本当の自由を手に入れる お金の大学』(朝日新聞出版)は、YouTubeチャンネル「リベラルアーツ大学」の両学長による、そうした不安に対する実践的な解決策を示した一冊です。
本書の最大の特徴は、複雑なお金の知識を「5つの力」という明快なフレームワークに整理している点にあります。学校では教えてくれないお金の基礎知識から資産形成の実践方法まで、体系的かつ段階的に学べる構成となっています。
**ただし、本書はあくまで「お金の基礎を学ぶ入門書」としての位置づけです。**経済的自由への道のりは長く、この一冊だけで完結するものではありません。本書を出発点として、継続的な学びと実践、そして自分の状況に応じた応用が不可欠です。
本書が示す「経済的自由」への道筋
本書が目指すゴールは「経済的自由」、すなわち**「生活費<資産所得」**の状態です。これは、働かなくても資産が生み出す収入だけで生活できる状態を意味します。
このゴールを達成するために、本書は以下の「5つの力」を順番に鍛えることを提唱しています。
1. 貯める力:支出を最適化する
経済的自由への第一歩は、収入を増やすことではなく支出をコントロールすることです。本書では「生活の満足度を下げずに固定費を削減する」という原則のもと、以下の項目を重点的に見直すことを推奨しています:
- 通信費:大手キャリアから格安SIMへの乗り換え
- 保険:日本の手厚い公的保険制度を理解し、不要な民間保険を見直す
- 住居:賃貸とマイホーム購入のメリット・デメリットを冷静に比較
- 車:所有ではなく利用へのシフト
- サブスクリプション:契約内容の定期的な棚卸し
特に注目すべきは、月々数千円の固定費削減が、長期的には数十万円から数百万円規模の節約につながるという複利効果の考え方です。
**この章は非常に実践的で即効性があります。**多くの読者がすぐに行動を起こせる内容であり、本書の中で最も成果を実感しやすい部分と言えるでしょう。
2. 稼ぐ力:収入源を多角化する
支出を最適化した次は、収入を増やすフェーズです。本書では、給与所得と事業所得の両輪を回すことの重要性を説いています。
給与所得の最大化
多くのサラリーマンは現在の職場での昇給を待ちがちですが、本書では以下のような選択肢を提示しています:
- 転職による市場価値の最大化:同じ仕事でも業界や企業を変えるだけで年収が大きく変わることがある
- 転職活動による自己の市場価値の把握:実際に転職しなくても、活動を通じて客観的な評価を知ることができる
- 社内でのキャリアアップ:スキルアップや部署異動による昇給の可能性
- 資格取得や専門性の向上:長期的な収入増加につながる自己投資
事業所得の創出
副業によって収入源を複数持つことで、会社への依存度を下げられます。本書では、リスクの低い副業例として、ブログ運営、動画編集、デジタルコンテンツ販売などが紹介されています。
重要なのは、「フロー型」(働いた時間に対する報酬)ではなく「ストック型」(一度構築すれば継続的に収益を生むモデル)のビジネスを意識することです。
ただし現実には:
- 副業で安定収入を得るまでには時間がかかる(半年~数年)
- 本業との両立には相当な努力が必要
- すべての人に副業が向いているわけではない
- 業種や個人のスキル・環境によって成果は大きく異なる
**「稼ぐ力」は5つの力の中で最も個人差が大きく、成果が出るまで時間がかかる部分です。**焦らず、自分のペースで取り組むことが重要です。
3. 増やす力:資産所得を構築する
「貯める力」と「稼ぐ力」で生み出した余剰資金を、お金自身に働いてもらう段階です。本書が推奨する投資の基本原則は:
- 長期的な株式投資で期待できるリターンは年利5〜7%程度
- 初心者はインデックス投資(市場全体への分散投資)が最適
- ドルコスト平均法による積立で、タイミングリスクを軽減
- 投資前に生活防衛資金(生活費の半年〜1年分)を確保
また、経済的自由達成後の出口戦略として「4%ルール」が紹介されています。これは、資産総額の4%を年間生活費として取り崩しても、資産運用により元本を維持できるという考え方です。
ただし、投資には重要な留意点があります:
- 株式市場は短期的には大きく変動し、時に大幅な下落もある
- 過去のリターンが将来も保証されるわけではない
- インフレ率の上昇は実質的なリターンを減少させる
- 為替リスク、税制変更、政治・経済情勢など、不確実性は常に存在する
- 「4%ルール」は米国データに基づくもので、日本で同様に機能する保証はない
**投資は決して「楽に儲かる」ものではなく、リスクと長期的な忍耐が求められます。**本書で学んだ基礎知識をもとに、さらに深く学び続けることが不可欠です。
4. 守る力:詐欺やリスクから資産を守る
せっかく築いた資産を失わないための知識も重要です。本書では、以下のような危険なパターンについて警告しています:
- ポンジ・スキーム(高配当を謳う投資詐欺)
- 新築ワンルームマンション投資の罠
- 未公開株詐欺
- 手数料の高い金融商品
これらに共通するのは「相場からかけ離れたうまい話」である点です。年利5〜7%という現実的なリターン相場を知っていれば、多くの詐欺を見抜けます。
**この章の内容は基本的ですが非常に重要です。**ただし、詐欺の手口は日々進化しているため、本書の知識だけでなく、常に最新情報にアンテナを張ることが必要です。
5. 使う力:人生を豊かにするためのお金の使い方
本書は、経済的自由をゴールではなく、豊かな人生を送るための手段として位置づけています。自由になった時間とお金を、自己実現、社会貢献、大切な人との時間など、本当に価値のあることに使う力が最終的な幸福につながると説いています。
**この「使う力」の章は比較的簡潔で、具体的な方法論よりも哲学的な内容が中心です。**実際にどう使うかは、読者自身が人生経験の中で見つけていく必要があります。
本書の特筆すべき3つの特徴
1. 圧倒的な具体性
抽象的な精神論ではなく、「どのような選択肢があるか」「どのような考え方で判断すべきか」が示されています。読者が今日から行動を起こすきっかけとなる実践的な内容です。
2. 段階的な学習設計
「5つの力」という明快なフレームワークにより、読者は自分が今どの段階にいるのかを把握しやすくなっています。一歩ずつ着実に進める設計が、挫折を防ぎます。
3. 入門書としての優秀さ
難解な金融用語を避け、図解やイラストを多用した分かりやすい説明。お金の勉強を始めたばかりの人でも理解しやすい構成になっています。
本書の限界と注意点
本書の価値を正しく理解するために、以下の点も認識しておく必要があります:
1. あくまで「入門書」である
本書は基礎的な考え方やフレームワークを提供しますが、各テーマについて深く掘り下げているわけではありません。例えば:
- 税制の詳細(確定申告の具体的な方法など)
- 個別の投資商品の選び方
- ライフステージごとの詳細な戦略
- 事業を大きく育てるための経営知識
これらについては、本書を読んだ後に専門書や実践を通じて学ぶ必要があります。
2. 万人に当てはまるわけではない
- 家族構成、住んでいる地域、健康状態、年齢などによって最適な戦略は異なる
- 副業ができない職種・業界も存在する
- 投資に回せる余剰資金がない段階では、まず収入を増やすことが優先されることも
- 介護や育児など、時間的・経済的な制約が大きい状況では、本書の戦略をそのまま実行するのは困難
3. 長期的な不確実性への備えが薄い
- 将来の税制変更、社会保険料の増加
- 予期せぬ医療費や介護費用
- インフレや円安による購買力の低下
- ライフステージの変化(結婚、出産、転職、病気など)
これらのリスクについては、本書の内容を実践しながらも、別途学び、備えることが必要です。
4. 投資には元本割れのリスクがある
本書で推奨されるインデックス投資は長期的には有効な手段ですが:
- 短期的には大きく下落することがある(リーマンショック時は約50%下落)
- 「必ず増える」という保証はない
- 心理的なストレスに耐えられず、途中で売却してしまう人も多い
投資は自己責任であり、本書の内容を実践する際も慎重な判断が求められます。
こんな人におすすめ
✓ お金の勉強を始めたいが、何から手をつければいいか分からない人
✓ 将来への漠然とした不安を具体的な行動に変えたい人
✓ 節約や投資の基礎知識を体系的に学びたい人
✓ 固定費削減など、すぐに実践できることから始めたい人
逆に、以下のような人には物足りない可能性があります:
- すでに投資や資産運用の経験が豊富な人
- 各分野について専門的な知識を求めている人
- 短期間で大きく稼ぐ方法を探している人
まとめ:入門書として優秀だが、継続的な学びが不可欠
本書『本当の自由を手に入れる お金の大学』は、お金の基礎知識を学ぶための優れた入門書です。特に「貯める力」の章は即効性があり、多くの人がすぐに成果を実感できるでしょう。
しかし、この一冊だけで経済的自由が達成できるわけではありません。
- 本書は「スタートライン」であり、ここから継続的に学び、実践し、自分の状況に応じて応用していく必要があります
- 「稼ぐ力」や「増やす力」の習得には時間がかかり、個人差も大きい
- 市場環境、税制、ライフステージの変化など、不確実性に対する柔軟な対応が求められる
- 投資にはリスクが伴い、必ず成功するという保証はない
それでも、本書は「お金のことを真剣に考え始めるきっかけ」として非常に価値があります。
もしあなたが今、お金のことで悩んでいるのなら、まずはこの一冊を手に取ってみてください。そして、最初のステップとして、通信費の見直しや不要なサブスクリプションの解約など、小さくても確実な行動を今日から始めてみましょう。
その小さな一歩が、あなたの「お金の学び」の旅の始まりとなるはずです。ただし、旅はここから始まるのであって、ここで終わるわけではないことを忘れないでください。
書籍情報
書名:本当の自由を手に入れる お金の大学
著者:両@リベ大学長
出版社:朝日新聞出版
※本記事は書籍の内容を紹介・要約したものです。詳細は実際の書籍をご覧ください。
※投資判断は自己責任で行ってください。本記事の内容によって生じた損失について、筆者は一切の責任を負いません。

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